この記事でわかること
- ✓「犬は表情で気持ちを伝えている」ことを示した東京大学の研究(2026年発表)の内容
- ✓耳・目・口元・しっぽ——部位別の気持ちの読み方
- ✓食事のときに見せる「おいしいのサイン」と「見逃したくない注意サイン」
- ✓ストレスや体調の変化に、表情から気づくためのチェックポイント
「うれしそうな顔をしている」「なんだか不安そう」——犬と暮らしていると、言葉では説明できなくても、そう感じる瞬間があります。犬の表情から気持ちを読み取るその感覚は、“気のせいではない”ことが、研究でも示され始めています。
東京大学の研究——犬は“好き”を顔に出していた
2026年1月、東京大学大学院農学生命科学研究科などの研究グループは、犬が好きなもの(おやつや飼い主など)を見たときに示す表情を、飼い主が自宅で実施できる行動試験によって観察し、共通する顔の動きを同定したと発表しました。
イヌが好きなものを見たときには「唇の分離」「顎の下落」「舌出し」「耳の内転」という共通した動きが、雌雄ともに現れた。
― 東京大学大学院農学生命科学研究科 プレスリリース(2026年1月)
さらにオスでは、「上唇の挙上と鼻のしわ寄せ」「下唇の下落」「唇なめ」「鼻なめ」という4つの動きも加わり、オスとメスで表情の出方に違いがあることも示されました。つまり犬は、感情を“表情”として表現している可能性がある——私たちが日々感じてきたことが、科学の言葉で裏づけられ始めているのです。
同じしぐさでも、意味が変わる——“唇なめ”の面白さ
この研究でとくに面白いのは、オスに現れた「唇なめ」「鼻なめ」です。唇や鼻をなめるしぐさは、これまで緊張や不安をやわらげるためのサイン(カーミングシグナル)として知られてきました。ところが今回の研究では、“好きなものを見たとき”にも現れています。
つまり、同じ動きでも文脈によって意味が変わるということです。おやつを前にした唇なめと、動物病院の待合室での唇なめは、まったく別のメッセージかもしれません。だからこそ大切なのは、1つのしぐさだけで決めつけず、「どんな状況で、ほかのサインと一緒に出ているか」をセットで読むこと。次の一覧は、その手がかりです。
部位別・犬の表情の読み方
犬の気持ちは、顔のパーツとしっぽに分けて見ると読みやすくなります。あくまで傾向であり、犬種や個体差(垂れ耳・巻き尾など)があることを前提に、普段のその子との違いを見てください。
| リラックス・機嫌がよいとき | 不安・ストレスのとき | |
|---|---|---|
| 耳 | 自然に立つ・軽く内側へ向く | 後ろへ伏せて頭に張りつく |
| 目 | やわらかい目つき・ゆっくりまばたき | 白目が見える・一点を凝視する |
| 口元 | 軽く開いて舌が見える | 固く閉じる・口角が強く後ろに引ける |
| しっぽ | ゆったり大きく振る | 低い位置で止まる・後ろ足に巻き込む |
食事のときに見せるボディランゲージ
研究が観察したのは「好きなものを見たとき」の表情——つまり、ごはんを前にしたあの顔はその代表例です。食事の場面は、犬の気持ちと体調がいちばん素直に表れる時間でもあります。
「おいしい・楽しみ」のサイン
こんな様子は、ごはんを楽しみにしている証拠
- 食事の支度が始まると、足踏みしたり、その場でくるくる回る
- 舌をぺろりと出す・口が軽く開く(研究が同定した“好き”の動きそのもの)
- しっぽを振りながら食べている
- 食後に口のまわりをなめ、飼い主を見上げる
見逃したくない注意サイン
一方で、食事のときの違和感は体調不良の入り口であることも。次のような様子が続くときは、注意して見てください。
食事のときの気になるサイン
- 匂いだけ嗅いで食器から離れる——食欲の問題のサイン
- 食べる姿勢を何度も変える・頭を下げづらそう——首や関節の痛みの可能性
- 片側だけで噛む・食べこぼしが増えた——歯や口の中のトラブル
- 食べながら唸る・体が固くなる——食器を守ろうとする行動。手を近づけず、安心して食べられる場所を
- 周囲をちらちら見ながら食べる——環境が安心できていないサイン
見逃したくないストレスのサイン
食事以外の場面でも、犬は小さなしぐさで緊張や不安を伝えています。カーミングシグナルと呼ばれる代表的なものを挙げます。
続くようなら環境を見直したいサイン
- 眠くないはずの場面で、あくびをする
- 唇や鼻をしきりになめる(食べもののない場面で)
- 視線をそらす・顔を背ける
- 濡れていないのに体をブルブルッと振る
- かゆくなさそうなのに、急に体を掻く
これらは「やめて」「落ち着きたい」の意思表示とされます。来客中、抱っこされたとき、知らない犬とすれ違ったとき——どんな場面で出るかを覚えておくと、その子の苦手がわかってきます。
思い返せば、私たちは毎日その表情を見ている
ごはんを待ちきれない顔。散歩の気配を察した瞬間の目の輝き。叱られた時の少し気まずそうな表情。安心しきって眠る穏やかな顔。
犬は言葉を話せません。けれど、毎日懸命に感情を伝えています。目や耳、口元——そのすべてを使って、私たちに語りかけています。研究で示された「唇」「顎」「舌」「耳」の動きは、まさに飼い主が毎日見ているあの顔そのものではないでしょうか。
表情は「かわいい」だけじゃない。体調のサインでもある
犬の表情は、ただ“かわいい”だけではありません。嬉しい。安心している。不安。寂しい。そして時には、体調の変化さえも表れていることがあります。
- 目に力がない、目やにが増えた——体調不良や目のトラブルのサインかも
- 口元をしきりに気にする、よだれが増えた——口腔内の痛みや吐き気のサインかも
- 耳を伏せて表情が硬い——不安やストレス、痛みを我慢しているサインかも
- 同じしぐさでも文脈で意味が変わる。1つのサインで決めつけず、状況と他の部位をセットで読む
- 食事のときの違和感(姿勢を変える・片側で噛む・匂いだけ嗅ぐ)は体調不良の入り口になりやすい
忙しい毎日の中では、つい見過ごしてしまうこともある。けれど、表情の変化に気づけるのは、毎日その顔を見ている飼い主だけです。
その表情を、見逃さないでほしい
犬の表情を見ることは、特別なトレーニングが必要なことではありません。ごはんのとき、散歩のとき、眠る前。いつもの暮らしの中で、ほんの少しだけ長く、顔を見る。それだけで気づけることが、きっとあります。
その表情を見逃さないでほしい。それは、大切な家族からの小さなメッセージだから。
まとめ
- 東京大学の研究グループが、犬が好きなものを見たときの共通した表情変化を同定(2026年発表)
- 「唇の分離」「顎の下落」「舌出し」「耳の内転」が雌雄共通のサイン。オスではさらに4つの動きが加わる
- 表情には感情だけでなく、体調の変化が表れることもある
- 毎日の暮らしの中で顔を見る習慣が、小さな変化への気づきにつながる
よくある質問
参考文献・出典
- イヌが好きなものを見たときに示す表情の同定 — 東京大学大学院農学生命科学研究科(2026年1月20日) (2026) [リンク]
SUPERVISED BY
峰村敦子
フードコーディネーター・ペットフーディスト
「愛犬と家族の、特別な時間を一皿に。」鹿沼和牛のメインディッシュから、健康を支える焼菓子まで。フレンチシェフと共に、妥協のない「犬の美食」をプロデュース。専門知識に基づいた、内側から輝く食の知恵を毎日お届けします。



